ブランド側は日本人のブランド志向を日本人の高い感性ゆえだと高く評価している。フランスを代表する高級ブランド六五社で組織する業界団体、コルベール委員会のオリビエーメレリエ会長はいう。フランスの持つ伝統的なもの作りと創造力が、高い品質と新しさを求める日本人の感性に合っているからだろう。(中略)日本人はバブル崩壊後の十年で以前にも増して本物を見極める目が養われた。(日経流通新聞二〇〇三年コー月二三日)ライターで知られるデュポンブランドの最高執行責任者、ペソジャミソ・・マーも同様の意見だ。目本人は価格だけでなく、素材や仕上げにこだわり、一流品の何たるかを理解できる。(日経流通新聞二〇〇三年一一月一八日)本音ではブランド品に走る日本人を軽蔑していたとしても、上得意客である日本人を悪くいうはずがない。商売なのだ。日本は世界戦略の一端を担う重要な市場なのだ。一流品を理解する感性があるから、我が社のブランドを買ってくれるのだというのは当然である。社交辞令として半分程度に受け止めておいたほうが正解だ。もっとも、彼らがいう「高い品質を求める」「素材や仕上がりにこだわる」という点は間違いない。他の国では「味がある」と評される仕上がりが、日本では「傷物」と受け取られる。バッグに入ったミシンの縫い目のちょっとしたゆがみも許されない。ボタンや止め金の使い勝手が悪いと、すぐに不良品としてクレームが入る。しかし、こういった日本人の傾向は「神経質」とも言い換えられるわけで、本物を見極めることのできる識別眼や成熟度と必ずしもイコールではない。実際、私が話を聞いた海外ブランドではこう指摘する人が多かった。「日本の消費者はうるさい」と。「だから、日本で通用すれば、どこでも通用する」ともいっていた。これが、表向きには「高い品質を求める」という表現に変わるのである。一方、当事者の日本人は、いろいろなアンケート結果を見る限りでは、ブランド志向を冷静に見ている。セブン総合研究所の調べでは、ブランドブームを「日本人が企業に踊らされているだけ」「海外高級ブランドの良さを本当に理解している人は少ない」とそれぞれ五割弱の人が答えていた。二〇〇二年に朝日新聞は、日本人のヴィトンの購買量が世界一であることについて、アンケートを実施しているが、ここでもクールな結果が出ている。「誇らしい」と答えた人は一四%なのに対して、「恥ずかしい」と答えた人は八五%もいたのだ。これらのアンケート結果が実態を表しているならば、では、誰がいったいヴィトンを、エルメスを、ダッチ製品を買っているのか。ヴィトンの、、バッグを持つ日本人は二〇〇〇万人以上だともいわれている。「踊らされている」「恥ずかしい」と感じながらも、ブランド品を買っているのだとすれば、それはどうしてなのだろうか。なぜバッグに人気か集中するのかこの疑問を解く鍵は、ブランド品の人気がバッグに集約されている事実にあると思う。いま上り調子のブランドは、どれも売上に占める、。バッグの比率が高い。ヴィトンは。バッグの売上が全体の七割、本来は毛皮を主力商品とするフェンディも同じく七割だ。エルメスは八割弱。洋服からスタートしたシャネルは三五%と低いが、それでもバッグの比率は年々高まる傾向にある。こうも。バッグが売れるのは、「見てすぐにどこのブランドのものかがわかる」からにほかならない。ヴィトンの。バッグで圧倒的に売れているのがLとVのロゴが入ったモノグラムラインであるように、どこのブランドでも好調なのは、ブランド名をあからさまにアピールする、。バッグだ。「Dior」のロゴが大量にちりばめられたディオールのバッグ、Fの文字が連続して入っているフェンディー、バッグ、Cの文字をあしらったコーチのシグネチャーシリーズなど、どれもしつこいほどに、ブランド名を外にアピールしている。プラグの黒のナイロン地の、、バッグが爆発的に売れたのも、「PRADA」のロゴが記された三角形のマータがあったからだ。なければ、ただのナイロン製の。バッグである。ロゴがなければ、あれだけ売れたかどうかは疑わしい。エルメスのケリーバッダも、パーキンも、その独特の形がエルメス製であることを物語っている。持っていれば、「あ、エルメスの、、バッグだ」とすぐにわかる。しかも、バッグの価格はお手頃だ。ブランドのプレタポルテを買おうとすると、二〇万円以上の出費を迫られるが、バッグならばコー万〜一三万円も出せば入手可能だ。日本人向げに10万円以下の商品も豊富にある。エルメスの布製バッグ「フルートウ」などは五万円以下で手に入る。ブランドの服を買っても、毎日は着ていけないが、、、バッグなら使い回しが利く。特にヴィトンは、どんな服にも合わせやすい(と皆信じている)。ブランド名がすぐにわかる記号性に加えて、値頃感と汎用性の高さという条件まで揃っているから、、ハ″ダがこんなに売れるのである。、、バッグとほぼ同じ値段のブランドの靴はバッグほどには売れていない。その答えはおわかりだろう。靴は、どこのブランドの製品なのかがわかりにくいからだ。中には見てすぐにわかる人もいるのだろうが、大半は「黒のパンプス」「茶色のブーツ」程度の認識だ。靴と。バッグの業界誌『フットウェアプレス』の発行人である柏恒夫はいう。「日本人の場合、靴は見栄の対象になりにくい。バッグと違って、靴はブランドごとにそう大きな違いが出せません。だから、一見してブランドがわからない。ブランドものの靴で売れているのは、見てブランド名がはっきりとわかるものです。日本ほどバッグと靴とでステイタスブランドに差がある国はないでしょうね」今から二〇年ほど前、ニュートラフアッショソの全盛期、女子大生の足元を飾った人気の靴があった。イブーサンローランのウェッジシューズ、前面に「YSL」の文字が入ったタイプだ。刺繍文字だから誰でもサンローランの靴だとわかる。身もふたもなく、「これはサンローランの靴ですよ」と靴が主張していたから、空前のヒットとなった。一〇年ほど前から人気が続いているフェラガモの「ヴァラ」というタイプの靴は、サッロ上フソのような文字こそないものの、大きなリボンがフごフガモだと雄弁に物語っている。どこのブランドの靴なのかが簡単にわからなければ、大きなヒットを狙えないのである。