扉を押して中に入った。一階はリネンと食器、二階が服と小物になっている。お客は私しかいない。二階に上がると、シルクの糸のセーターが美しいグラデーションで重ねられていた。ふと、奥を見ると彼女がいる。マダム・グラトーは、大きなテーブルの前に立って、段ボール箱から服を一枚ずつゆっくりと取り出しているところだった。淡いベージュ色のカシミアの丸首セーターに紺色のパンツ。髪は後ろでひとつに束ね、紺の細いリボンで低く結んでいる。体の細さは私の半分ほどしかない。小さな顔の口元や目尻の皺は、この人がもう若くないことを物語っているけれど、どこかに少女の面影もあって、全身のたたずまいは晴れわたった湖水のように静かだった。「フレンチ・ヴォーグ」の社交欄などで見る彼女は、いつも流行を完全に超越した、これ以上ないほどシンプルな装いをしている。ジュエリーもつけず、たいていテーラードジャケットにパンツ。それにタートルか丸首のセーターを合わせて、色は全身、紺あるいは白。そういう彼女には、やはりパリの人々の中にも隠れファンが多く、カリスマ的な存在でもあると何かで読んだことがある。